日米安全保障条約とかいう「不平等条約」は破棄されるのか?
日米安全保障条約とかいう不平等条約
地球のほぼ反対側の島国の防衛義務を負い、その島国は自らの国を防衛する義務を持たない。その島国が攻撃されたら自らの軍に自衛戦闘義務が発生するが、自らの国が攻撃されてもその島国には戦闘義務は発生しない。
アメリカのトランプ大統領は、このような実態の日米安全保障条約を「片務的で不公平」と表現している。なるほど一見合理的である。アメリカ軍にとって、遠い東の果ての国を防衛するためにアメリカ人の血が流れることが許容されるのだろうか。
不平等かつ合理的な日米安全保障条約
一見片務的に見えるこの「不平等条約」も、実はかなり合理的であり、当面は存続するものと僕は考えている。
前提として、実際のところ、僕たちの国日本は、近代的国家としては致命的な欠陥を抱えている。それは、自国を防衛できるだけの十分な戦力をもっていないことである。
かつてドイツの指導者ヒトラーは著書「わが闘争」の中でこう語っている。「自らを自らの力を持って防衛できない民族は滅びるしかない」。これはヴァイマル共和国下でアイデンティティも自衛力も喪失したドイツ民族に向けて書かれたものだが、不思議なことに、100年も前に書かれたこの言葉は、現代でも通用するのである。
日米安全保障条約が締結された歴史的経緯から考えると、締結当時の条約は大変合理的であった。太平洋戦争後、軍備が解除されて事実上自衛戦力をもたない日本、地政学的に日本列島と太平洋を挟んでアメリカと相対する強大な共産主義国家の中華人民共和国と超大国ソヴィエト連邦の存在。この状況での日米にとっての最適解は何か。
反共防波堤としての日本列島
日米安全保障条約は、日本を西側陣営にとどめおき、かつ太平洋上の反共防波堤とし、(日本を戦場にするかたちで)共産主義を水際で阻止するという意義が明確に現れた条約であり、それは以降60年にわたって機能してきたのである。
何かの間違いで日本が東側陣営に加われば、太平洋を挟んで文字通りの東西戦が展開されるところであったから、本条約締結に関わった当時のアイゼンハワー大統領と岸信介首相は有能だったと評価していいだろう。
時代が下って、ソヴィエト連邦が崩壊し、中国が資本主義国家へと変革を遂げると、日本は少しづつ、アメリカに対して具体的な軍事的協力を実行していくようになる。その例が、湾岸戦争における資金拠出であり、イラク戦争における自衛隊のイラク駐留であり、インド洋への海上自衛隊の派遣である。
僕が考察するに、日本は徐々に自国の「反共防波堤」という役割が薄れていることを認識しており、それでもアメリカに「日本を防衛するだけの理由」をもたせるために、そういった軍事的協力に積極的になっているのだろう。その理由は明らかで、自衛隊の戦力では、日本国の防衛には戦力不足であることを日本政府は認識しているからだ。
日本単独で日本を防衛できない実情
実際、僕たちは自衛隊の戦力をもって日本を防衛できるのだろうか。日本を防衛と一言でいっても、その範囲は広大である。それは日本本土のみならず、日本のあらゆる経済活動の生命線であるシーレーン防衛が重要である。ホルムズ海峡やインド洋航路、シンガポール海峡などの、エネルギー輸送用の海上交通の要衝を自国のみで守ることができるだろうか。
自衛隊の兵力は陸海空全て合わせても23万程度であり、そのうちシーレーン防衛任務を担当するであろう海上自衛隊の人数は4万5千人程度である。海上の戦闘能力となる航空母艦はなく、それゆえに艦載戦闘機も保有しない。この状態ではシーレーンどころか、日本本土近海の防衛すらおぼつかないだろう。
インド洋に海上自衛隊の護衛艦が各国の海軍と協同で活動しシーレーン防衛に寄与できているのは、沖縄や横須賀、横田や福生といった日本本土側の主要な基地に在日米軍が展開しているからだ。仮に在日米軍なしで防衛体制を構築するなら、日本本土防衛すらまともに機能しないだろう。
シーレーン防衛はおぼつかず、多くの船舶が海賊の戦利品になってしまうに違いない。特にエネルギー調達が不安定になれば、日本は経済的に混乱し、国力は低下するだろう。相対的に中国が台頭し、それは環太平洋地域全体のパワーバランスに混乱をきたすことになる。
日本の弱体化というアメリカにとってのリスク
この点に、アメリカが日米安全保障条約を継続する理由がある。日本の弱体化はアメリカにとってのリスクであるということだ。一大強国となるポテンシャルを秘めている中国や強力な軍備をもつロシアに対して、アメリカの依代となる日本という対抗馬が必要なのである。
アメリカとしては、太平洋を挟むとはいえ、直接的に軍事的対立の前線が発生することを許容しない。それはアメリカの防衛上のリスクが格段に上昇することになるし、だからこそアメリカは中国やロシアを含めた環太平洋の各国と結んで、太平洋上に敵を作らないように配慮しているのだ。
ちなみに永世中立国という手段はあるのか
ところで、日米安全保障条約を破棄するという主張も根強くあるのも事実である。ならば問おう。日米安全保障条約なくして、どのように日本を防衛するというのだろうか。
たとえば永世中立国になるというのはどうだろうか。実は永世中立国は、防衛費が格段に高くなる。なぜなら、永世中立国であるからこそ、他国に一切軍事的に与しないため、相互援助が期待できないのだ。ならば自国をすべて自力で防衛できるだけの巨大な戦力が必要になる。結果として防衛費は高くなるというわけだ。
果たしてそれは許容されるだろうか?
永世中立国というのは軍備からも防衛からも解放されるウルトラCのようなものではなく、防衛という、国家の国民に対しての重大な役割が放棄されるわけでもない。むしろそれを強化し増大するものだと認識しなければならない。
正しいお金の使い方
太平洋上に国際紛争の前線を抱えたくないアメリカと、自国のみでは貧弱な防衛体制しか構築できない日本、それぞれの利害が一致した最適解が、日米安全保障条約というわけである。
実際今の日本において日米安全保障条約は軍事的な抑止力として機能しているわけだし、今すぐ自衛隊を自衛軍に格上げして防衛戦力を充実させるというのも現実的ではない。
有事になればアメリカが味方であることほど心強いものはないし、多少の費用や土地の負担によって国家の安全が担保されるなら安いものである。日米地位協定の改定が必要なら検討してやるがいい。金で安全保障を買うというのは、税金の使いみちとしては明らかに正しい。これからも日米は蜜月でありつづけてほしい。
まぁそんなわけで、僕としては、引き続き日米安全保障条約が維持されることを期待している。