箱根登山鉄道の吊り掛け駆動車、モハ1形が引退へ
また1つ、往年の名車の歴史が終焉を迎える。
箱根登山鉄道は、2019年7月にモハ1形電車を引退させると発表した。
このモハ1形、実は車齢100年を迎える。1919年の箱根登山鉄道の鉄道線開業時に運用が開始され、当時はチキ1形と呼ばれた。
モハ1形は1950年に車体が鋼鉄製となり、また電圧を直流750V(登山鉄道区間)と同1500V(小田急区間)に対応させる改造が施され、今に至るまで利用され続けてきた。
鉄道車両の寿命は30年~40年といわれる中で、まさに走る骨董品と呼んで差し支えないだろう。何なら博物館に収蔵されててもいいレベルだ。
そうはいいつつもやはり老朽化には勝てず、2019年7月をもって引退することとなった。
吊り掛け駆動方式の、低く唸るようなブゥ~~ンという音が今でも思い出される。
子供の頃、僕は小田急線沿線に住んでいた時期があって、箱根にはよく遊びに連れていってもらった。僕は当時から電車が好きで、スイッチバックを度々行うこの登山電車にはロマンを感じたものだ。
出山信号場スイッチバック(塔ノ沢駅~大平下駅間)から、新緑の美しい森の中に架かる早川橋梁を望む。この橋は1917年架橋なので架けられてから100年以上が経っている。
それだけでもすごいのだが、この橋のトラス構体は更に前の1888年製造のもので、近代産業遺産に指定されている。まさに名橋である。
ところで、この時期(6月)は紫陽花が美しい季節だ。箱根登山鉄道の沿線には多くの紫陽花が植えられており、観光客の目を楽しませてくれる。
ロングシートのモハ1系では座って眺めることはできなかっただろうが、現在主力の2000形などであればセミクロスシートなので、窓際に座れば、電車の通過する際の風に揺られる紫陽花を見ることができるだろう。
僕が最後に箱根を訪れたのは2012年のことだ。ずいぶんと足が遠のいてしまった。実のところ、今回のニュースを目にするまで、このモハ1形がそんなに貴重な車両であることを知らなかったのだ。それで慌てて過去の写真を引っ張り出してきた次第である。
ところで、引退後のモハ1形の処遇が気になるところである。割と真面目に、近隣の鉄道博物館に収蔵されるべきではないだろうか。
登山鉄道特有の安全走行設備であるレール圧着技術や散水機構というのは、後世に伝えるべき鉄道技術遺産であるはずだ。大宮でも名古屋でも京都でもいいから、ぜひ収蔵してほしい。
このまま廃車・解体とならないよう祈る。