シンガポールのアジア文明博物館でアジア文化と宗教を学ぼう
シンガポールは、中国人、マレー人、インド人などが寄り集まって構成されている多民族国家である。シンガポールに定住したこれらの民族は、どのような文化を継承し、あるいは歴史をたどってきたのか。それを民族別に整理し展示しているのが、このアジア文明博物館である。
立地的には、マーライオン公園やラッフルズ上陸の地などからほど近く、それらの観光のついでに立ち寄れるアクセスの良さがある。
マーライオン公園からは、フラートン・ロードを遊歩道でくぐり、アンダーソン橋を渡ってすぐの場所にある。
ラッフルズ像のあるラッフルズ上陸の地の裏手すぐに入口がある。
シンガポールにはもう1つ、シンガポール国立博物館という大規模な博物館がある。こちらは、シンガポール島という1地域にある程度限定し、その歴史を垂直的に追っていく構成を取る。それに対してアジア文明博物館は、現在シンガポールに定住する各民族を軸にして、その文化や宗教について横断的かつ複合的に学ぶことができる。特に比重が大きいのは宗教面で、中国系、インド系、ベトナム系、インドネシア系、タイ系、そして日系の各民族に対して、仏教、ヒンドゥー教、ジャイナ教、そしてキリスト教がどのように関わったかを学ぶことができる。
アジア文明博物館の中庭にあるダルハウジー・オベリスクという謎のオベリスク。自由貿易を広めるために建設されたらしい。
アジア文明博物館は、シンガポール国立博物館より小規模だが、展示品のクオリティは、何かのついででは済まない程度には充実している。1つ1つをじっくり見るなら、あっという間に数時間が経過するだろう。
ちなみに入館料は20Sドルである。
ところで、以下にいくつか撮影した写真を掲載するのだが、僕の見落としかもしれないが、写真撮影不可とはどこにも看板が出ていなかった。スタッフもところどころにいたが、特に指摘されることがなかったため、そのまま掲載する。しかし、読者諸君がもしこのブログを読んで現地で写真撮影して怒られても、管理人たる僕は一切責任を持たないので、自己責任でお願いしたい。
どこの博物館でもそうだが、フラッシュはNGである。
また、いくつかの写真は記憶だよりに書いているので、その正確性は保証できない。それでもこれらはとても美しいので、ぜひ見てほしい。
ベトナムの千手観音像。ベトナム×仏教の美術品の1つ。まずベトナムに千手観音がいるという事実に少々驚く。僕と同じアジア人で、日本と同じように中国経由で仏教が伝来しているのだから、あって当たり前なのに。そういう当たり前のことに気付かされるのが、この博物館の素晴らしいところだ。
インドネシア×仏教。ジャワ島から出土した仏像。
インドネシア×ヒンドゥー教。ジャワ島から出土したガネーシャ像。
タイ仏教の仏像。日本の仏像と違って、どれも笑みをたたえているのには何か理由があるのかもしれない。
インドネシア×ヒンドゥー教。ボロブドゥールで出土した12世紀頃のシヴァ神像。
材質は青銅なのだが、これを鋳造した金属加工技術がすごすぎる。
中国仏教の仏神たち。右端は関羽像。左橋は遼時代の仏像。その右隣りの赤い仏像は19世紀のもの、中央の仏像は明時代のものである。
タイのスコータイ朝時代の仏像。立っている姿の仏像は数多くあるが、歩いている姿の仏像は日本ではあまり見かけない。
こちらも中国の仏像。中国も非常に高度な工作技術を持っていたことがわかる。
陶器で作られた中国の仏像。
中国におけるキリスト教の礼拝台。観音開きでまるで仏壇であるが、その中央に十字架とイエスが祀られている。
日本のキリスト教コーナーも。左は日本史ではおなじみの踏み絵。右は隠れキリシタンが信仰のために所有していた、仏像が彫られた十字架である。江戸幕府の迫害から逃れるために、こうした工夫を凝らさなければいけなかった。
悪魔を倒す大天使ミカエルの像。これがベトナムで作られたというのは驚きである。ヨーロッパでも似たようなものはあるだろうが、顔つきがアジアンぽくなるのが趣深い。旧約聖書の天使であるミカエルの信仰が、ベトナムまで広まっていたことを示す一作。
十字架に貼り付けにされたイエス像。中国で作られたもので、陶器でできている。こちらに限らず、キリスト教コーナーで展示されている中国やインドネシアで作られたイエス像は傷跡からの流血の描写が痛々しく、血を見るのが苦手な人は控えたほうがいいと思われるほどである。
さて、現在東南アジアにおいては、イスラームはインドネシアを中心に中心にそれなりに大きな勢力を占める。シンガポール国内にも多くのモスクが建立されている。にもかかわらず、ここまで見てきて、アジア文明博物館においてイスラームに関する展示は極めて少ない。
僕が考えるに、イスラーム自体が偶像崇拝を禁止していることによるのが大きいだろう。イスラームには「偶像」に値する何かしらのイコンが存在せず、あるとすればクルアーンや紙に記載されたイスラーム法典だっただろうが、それらはこの東南アジア特有の高温多湿の環境において朽ち果ててしまったのかもしれない。
全体的に、仏教美術関連の展示が非常に充実している。一方でジャイナ教やヒンドゥー教の展示などは、日本ではあまり見られるものではないので、是非この機会に見ていただきたい。仏教との共通点を見出すとともに、その彫刻技術のレベルの高さに圧倒されるだろう。