ありがとう、さようなら。東海道新幹線700系が引退へ
東海道新幹線から700系が引退
まだ走れるのに早すぎる、というのが正直な感想である。登場から21年、東海道新幹線から700系新幹線が引退するという。
2020年3月8日ラストランとなり、これをもって東海道新幹線から700系は引退した。
ビジネス需要の多い東海道新幹線
東海道新幹線は東京~名古屋~大阪という日本三大都市圏を結んでいるため、ビジネス客の利用が非常に多い。僕も何度か出張に出張に行かされて、名古屋や大阪を回ったことがあるが、そういうときは経費を使うため心置きなく新幹線を使う。平日朝夕の新幹線は、ネクタイを締めたセールスパーソンばかりで、いかにも「オレたち企業戦士」みたいな雰囲気が感じられて甚だ居心地が悪い。
僕なんかが旅行で移動するときは、もっぱら夜行高速バスだ。料金あたり最も安いからだ。何なら旅行で新幹線を毎回使うことができるのはブルジョワジーと思っているまである。
それはともかく、記事では、JR東海が速度向上を意図していること、具体的には、最高速度を時速270kmから、同285kmまで引き上げるため、700系ではそれだけの速度が出ないためということが理由として挙げられている。
700系とN700系の違い
700系とN700系の走行機器はほとんど変わらないが、違いはその先端部分の形状とライトの位置、それと窓の間隔にある。700系はカモノハシのようなのっぺりとした形状だが、N700系は最新の流体力学を取り入れ、空気抵抗と低騒音に配慮しているため、少々複雑な形状になっている。窓もN700系シリーズのほうが狭く、窓間の間隔が広い。
引退する700系。ライトの位置は運転席窓の直下にある。窓は大きい。
今後の主力となるN700系A。前面形状が700系より複雑になっている。ライトは車体側面に位置する。窓は狭く、間隔が広い。
行き先表示がフルカラーLEDなのもN700系以降の特徴だ。
700系が引退するのはスピードアップの都合だけではない
今後の主力となるN700系。京都駅にて撮影
実は後継のN700系及びN700系Aについては、主な顧客であるビジネス客の需要に沿うようなアコモデーション(内装)になっている。トンネルでも途切れない無線LANの接続サービスや、ノートパソコン用などの電源コンセントを全席で利用可能にしたりと、ビジネス客が新幹線での移動の最中にも仕事ができるように配慮されている。
ビジネスマンならずともこれだけデジタルデバイスが普及しているのであるから、電源コンセント全席常備というのは非常にありがたい設備であると思う。逆に言えば、それがスタンダートということになると、むしろ700系は「ハズレ」であり、例えばコンセントを使おうと思っていたのに使えなかったというクレームや顧客満足の低下の原因になることを意味する。
新幹線の移動は特別なものだった
それでもかつての東海道新幹線には、カフェサロンや食堂車、コンパートメント(個室)があって、家族連れが特別な旅として使うこともできた。それが今では、無機質な2×3のの座席と、自動販売機がところどころにあるだけの、ひたすらに効率化された無機質な設備ばかりが残っているように思える。
何が言いたいかというと、つまるところ、みんな急ぎ過ぎじゃない?ということである。昔は無線LANもノートパソコンもなかったけれど、ビジネス客というのは新幹線で移動していたし、その移動時間で仕事をしなくても良かったはずだ。効率化の波に押されて、新幹線での数時間の移動時間すら「効率的に」仕事をしなければいけないように駆り立てられるなんて、それはとても不健康なことに思える。ホットコーヒーを飲みながら新聞に目を通しつつ、新富士駅あたりの美しい富士山の姿を眺めるだけの余裕のある人が、どれだけ座っているのだろう。
700系新幹線の引退の記事を読みながら、そんなことを考えるのは、きっと僕が鉄オタだからに違いない。僕のような底辺喪男にとっては、新幹線に乗ることすら自分へのご褒美になりうるものね。