新しいものが歓迎される時、そこには必ず、旧い何かが姿を消すということがある。JR西日本が投入した最新鋭の323系の投入による、103系の置き換えというのはまさにそれだろう。
3年も前から、僕は大阪環状線103系の引退を危惧していた。小学生のときに祖父母の家へ遊びに行ったときも、中学生の時に友達と遊びに行くにも、高校~大学にかけて学校へ通ったときも、常に武蔵野線の、オレンジバーミリオンをまとった103系がそこにいた。それは僕が鉄道の写真撮影を趣味にする前に武蔵野線から姿を消し、インドネシアへ旅立つか、JR西日本へ譲渡されるか、あるいは廃車されていった。あるタイミングで、日常は、日常ではなくなり、VVVFインバータ制御に魔改造された205系が走り回る風景が、僕の新しい日常になった。
今一度、かつての日常を。懐かしみのあまり、僕は大阪を訪れた。オレンジバーミリオンの103系に今一度乗りたいというためだけに。
大阪駅に到着した103系。戸袋窓がなくなっているなど、見た目は若干変わっているが、あの重苦しいMT54のモーター音と、ブロアの音と空気弁からシューシュー漏れる排気音をたてながら入線する103系は、かつて見たままだった。
福島駅に到着する、体質更新された103系。新車投入の予算がない大事に使われているのがよくわかる。
そして、その時は訪れた。323系の登場である。
JR西日本の最新鋭車両である323系。103系と201系を置き換える。それまで103系が生き残っていたのは、新鋭車両の開発にリソースを使っていたということだろう。
大阪環状線の森ノ宮駅は、鉄道の撮影スポットとして有名である。しかし、待てども待てども、来る電車は323系ばかり。たまにそれに混じって201系がやってくる程度か。やはり置き換えは進んでいるようだ。昔は103系を撮影するのにこんなに時間はかからなかった。これも時間の流れというものだろう。
おそらくこの機会以降、僕にとって思い入れのあるオレンジバーミリオンの103系に乗る機会も、それを目にする機会もないことは、容易に想像がついた。日常が思い出になってしまうその前に。そんなことを思っていると、聞き慣れた重たいモーターの音が聞こえてきた。待つこと30分。ようやく現れた103系。
大阪環状線周辺の見どころを全面にラッピングした103系。車両全てに大阪の観光スポットが描かれており、基調となる色も各車両で全て異なるという思い切りの良さ。遠くないうちに廃車する車両ということで、派手にデザインしたのかもしれない。先頭だけ見れば、かつてのカナリアイエローをまとった総武緩行線の103系に見えなくもない。
後ろから撮影すると、脳内補完すれば、それはまさにオレンジバーミリオンの103系だった。
48年もの間、103系は大阪環状線を走り続け、今や323系にその任を託した。思い出をありがとう、という一言で表してしまうだけでよいのだろうかと思わないでもないが、時代は流れ続けていて、その中で僕たちは途中途中で少しだけ、過去を振り返るくらいしかできない。103系がいた日常は、今や323系がいる日常へと変わっていった。これから何十年も経って、323系が引退する時は、きっとみんなから惜しまれるような、そんな車両になっていてほしい。