とある底辺喪男の社会評論

現代社会の様々な問題点や、政治、経済、金融、教育のあらゆる社会的分野について、好き勝手に評論する若干意識高めのブログです。ただし、論者は底辺喪男です。

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改正水道法の最大のリスクは、厚生労働大臣だ

www.nikkei.com

人口減少に備えた改正水道法

「水道 民営化」でGoogle検索すると、水道の民営化に反対するという記事が多くヒットする。おそらくこれがバズったのは、水道法を改正することで、閣議決定がなされたということからだろう。これは、今後の人口減少に伴い、地方の水道インフラの維持が困難になることを見越して、近隣の自治体どうしで互助的に対応できるように、あるいはさらに上位の自治体が対応できるように、水道事業の権限委譲について定めたものである。

こちらは閣議決定された改正案の内容である。

www.mhlw.go.jp


小難しい法律用語が並んでいて非常に読みづらいが、水道事業者が他の水道事業者にその事業を移譲する際の決め事が細かく記載されている。その他、水道管理において品質を保つこと、水質検査の結果を使用者に提供すること、品質管理の技術担当者をおくことなどが定められている。

この判断は非常に合理的だといえる。冒頭に書いたとおり、現在日本は人口減少問題を抱えており、毎年数十万人の人口が減っていく計算になる。人口減少は地方ほど進行が激しく、いずれ税収のみではそのインフラを維持できなくなるのは必定である。だから、他の近隣の自治体、あるいは市区町村の上位レイヤである都道府県に、滞りなく水道事業を移管できるように、予め法整備に動いたということだろう。

それは、水道法の目的が「水道の計画的な整備」から「水道の基盤の強化」に変更されたたことからも伺うことができる。

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民営化の定義と改正水道法のリスク

これは、我々にとって極めてリスクの高い法改正であると言われている。だが、我々は、何がリスクなのか、明確に整理しなければならない。

まず、民営化という言葉は、なぜか我々有権者の心をくすぐる何かがあるらしい。反対語は国有化がそれにあたるだろう。社会インフラについて 、国が一元的に管理する時代ではなくなった。規制緩和だとか、官から民へみたいなスローガンとかのもと、民間でできることは民間に移譲し、新たなビジネスを拡大していく。民営化という言葉には、そんな素敵な未来へ期待する響きがあるに違いない。

これまで、日本電信電話公社が民営化されNTTになったり、国鉄が民営化されJRになったり、郵政省の郵便事業が民営化され日本郵便になったり、国が独占的に担ってきた事業が民営化されることは、有権者の支持を集めてきた。(その結果がよかったとは言ってない)

今回の水道法改正についても、様々なブロガーや有権者が、その見解を述べている。それらに通底するのは、水道事業が自治体の水道局などから他の「団体」に移譲される→その「団体」は悪徳外資を含む民間企業→事実上の民営化促進→よって悪という論理である。
実のところ、この論理自体は一点の綻びもなく正しい。悪徳外資があるのなら強欲国内企業もあると考えるべきだと思うけど。

確かに、今回の法改正は、表向きは水道事業の民営化を目的としたものではない。むしろ、人口減少ペースの激しい地方にあっても、水道事業が継続可能になるように手を打っただけであるように見える。

まず論点にしなければならないのは「民営化」の定義である。「民営化」の意味として、水道事業全般の経営を指すのか、それとも水道事業の業務の一部において民間企業へアウトソースすることを指すのか。

後者から見ていくと、実際のところ、各自治体において、水道維持を民間企業に委託する例は増えつつある。PFI(Private Finance Initiative)という方式が広まっており、これ公共施設の建設・維持管理・運営について、民間企業の資金、経営能力、技術を活用する方式である。このPFIで運営されている水道事業は12箇所8事業体存在し、東京都朝霞浄水場横浜市川井浄水場などの事業がそれにあたる。さして問題もないし非常に合理的な枠組みである。上記における「民営化」はきっとこの意味ではないだろう。

前者の「水道事業全般の経営」となってくると意味合いがまるで異なってくる。民間企業である以上、営利を得なければならないから、どうしても水道事業を通して利益を上げなければならない。これは明確にしておきたいが、水道事業と民間企業の相性は最悪である。水道事業には民間企業的な競争原理が成り立ちにくいことだ。その決定的な点は、まさに地方の水道事業の独占にある。都市圏などの人口密集地域の水道であれば、複数の水道事業者が参入して価格とサービスでの競争原理が働くかもしれないが、そもそもパイが少ない地方の水道事業はどうであろうか。特定の市場の寡占状態となった民間企業がすることなど決まっている。大幅な値上げと品質の低下である。

いやそうでなくとも、都市圏だって、同じことが起こりうる。複数の企業が参入していても、お互いが示し合わせたら同じことだ。これについて、独占禁止法が速やかに適用され、利用者が保護されるだろうか。
結果としてそのツケをかぶるのは、名も無き善良な一般の水道利用者である。

これは我々水道利用者にとって極めて大きなリスクである。だがちょっと待ってほしい。水道法には以下のような条文がある。

水道事業者は、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならない。(第14条1項)
前項の供給規程は、次の各号に掲げる要件に適合するものでなければならない。(第14条2項)
料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものであること。(第14条2項1)
料金が、定率又は定額をもつて明確に定められていること。(第14条2項2)
水道事業者が地方公共団体以外の者である場合にあつては、供給規程に定められた供給条件を変更しようとするときは、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。(改正第14条6項)

つまり、適正でない料金を設定した場合は、厚生労働大臣が認可しないと定めているのである。これは、投資を回収するために高い料金設定にしたとしても、それが「公正妥当」でなければ認可されないということだ。条文的にもとくに不都合な点はない。極めて常識的なことが普通に記載されている。

水道事業経営に参入する企業もリスクを抱える

となると、水道事業経営会社にとっては、例えば新規事業みたいな感じで、需要創出名目で新しく水道管を整備しても、その投資を回収できるか極めて不透明である。しかも、水道法第11条によれば、水道事業者は、給水を開始した後、他の事業者に事業を以上しない限り、給水を続けなければならないのだ。

こうして考えると、水道事業の経営権それ自体は、常に事業の拡大を要求される民間企業にとっては、失敗しても撤退できないという点で、リスクが高いのである。新しく水道管を整備し、それが採算割れしたとしても、給水を停止してはならない。文字通り、赤字を垂れ流してしまうのだ。ならば、そういったリスクを回避しつつ、水質保全や設備の維持管理などの、安定的な収益源確保のみにつとめてもらったほうが良いと思われるが。

上記のことから導き出される僕の結論は、我々水道利用者にとって極めて大きなリスクは、厚生労働大臣の判断基準である、ということだ。料金の値上げがあったとしても、それを厚生労働大臣が合理的だと判断してしまえば、認可されてしまい、利用者は水道料金の値上げに苦しむことになる可能性があるのだ。

リスクがあるなら解決策もある

何がリスクなのかという視点を誤ってはならない。
水道事業が民間企業によって運営されることが問題ではない。
民間企業によって規定された料金が、水道法第14条2項1および2に反しないと厚生労働大臣が認めることを恐れなければならないのだ。

立ち返ってみると、これは大変に大きな問題だ。もはや民間企業の助力なくして、地方公共団体が水道事業を継続することは困難だろう。さりとて民間企業が水道事業の経営に参入しても、厚生労働大臣のご乱心以外に収益拡大の見込みはあまりない。どうしたって横並びを強いられる。

解決策はある。その地方の水道事業経営に参入する民間企業を2以上にするよう法的に整備することだ。地方でも、都市圏でも、水道会社が1社に集中することのないように仕組みを作るのだ。水道事業においては競争原理が不足しているのだから、それが働く環境を整備してやればいい。逆にそうできないならば、この段階で官は民営化など推進するべきではないし、民は水道事業経営に参入するべきではない。あるいはPFI方式のまま、民はおとなしく水質保全と設備の維持管理だけやっていればよろしい。

官から民へというのは聞こえはいいが、民は競争原理が働かないと、そのパフォーマンスは官にも劣るのだから。

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