MRJ終了のお知らせ~納入は2020年半ばに~
三菱重工業は、開発中のジェット機MRJの量産計画の縮小を発表した。
※記事は読売オンラインのサイトから、古いため削除されたようです(2017/03/11)
MRJはとうとう失敗した
僕は以前、本ブログで、昨年末に三菱重工業がMRJの納期延期(5回目!)を発表した時、MRJプロジェクトは失敗しつつあるという考察を書いた。そして今回、量産計画自体を先送りしたところで、失敗なのかもしれないという推量ではなく、失敗したという断定的表現を与えざるを得ないと考えた次第である。
そもそも、現時点でのMRJは、アメリカ国内のエアライン・パイロット間の労働協約「スコープ・クローズ」問題を未だにクリアできていない。その時点で、注文機数100機ともいわれる大口顧客であるスカイウェスト航空への納入が危ぶまれるところであるのだが、そこにさらに量産計画の縮小という情報が現れたのである。これまでの度重なる開発遅延によって、開発費用は当初の想定1800億円を大幅に上回り5000億円超となっている。飛行機の開発費用は数十年単位で回収するのが一般的であるから、この開発費用は何十年かかけて回収することとなるだろう。そしてその原価回収を効率的にすすめるためには、1機でも多く、1月でも早く、エアラインに納入しなくてはならない。
アメリカ:ニューヨークのラガーディア空港で離陸を待つ、デルタ航空のエンブラエルE170。MRJのライバル機の1つだ。
そんな状況下でありながら、今回の三菱重工業の発表は、量産計画の縮小であった。回収するべき開発費用は膨れ上がるのに、それを回収する手段である機体の生産数は増やさない(増やせない)という状況である。新型エンジンによる長大な航続距離と省燃費、低い騒音を備えるとはいえ、2020年の納入時期には、小型機の開発経験が豊富で信頼度の高いエンブラエルやボンバルディアが、それと同水準の航空機を開発していることだろう。航続距離、燃費、低騒音性のレベルがほぼ同じ小型機があったら、開発経験が豊富なメーカーの航空機を選定するのが一般的だと思われる。そうなると、MRJはそもそも買い手がつかないのではないか。
以上のことから考えて、MRJ開発計画は、事実上の失敗プロジェクトであることを意味するものと捉えて差し支えないであろう。
商業飛行に向けての準備は進む
一方で、商業飛行に向けての飛行試験は着々と進んでいるようだ。アメリカ中西部の都市シカゴで、自然着氷試験を行ったという。これは、飛行時に機体にどのように着氷するか、またそれを防止するかの試験である。例えば航空機の挙動を制御する補助翼、垂直尾翼、水平尾翼に着氷すると、その部分の形状が変化してしまうことになり、周囲の気流が乱れ、揚力のコントロールに支障をきたすからだ。
開発を中止する必要はない
さて、ここからは意見が別れる点であるだろうが、僕は、今のところは、MRJ開発計画自体を中止する必要はないと思っている。国産旅客機を自らの手で飛行させるというロマンがないわけでもないが、ロマンを追うために開発するくらいならむしろ開発など中止してしまえばいい。ロマンを追うだけのために税金を使うことは道義的に許されない。
少なくとも、商業的に成功しなくとも、開発に成功すれば、航空機開発の知見が蓄積されるし、そうでなくとも軽くて強い部品の開発に成功すれば、それをもって国際競争力豊かな部品メーカーが誕生することもあるかもしれない。航空業界のみならず、製造業全般にある程度のリターンがあるようであれば、杓子定規に中止しなくてもよいのではないかと考えているのだ。この場合の税金の使いみちというのは、国内の産業にどれだけの新たな伸びしろを与えることができるかで、判断されていかなければならない。
だが、もし三菱重工業や政府が、自らのメンツのためとか、そういう利己的な目的のために税金を投入してMRJを飛ばそうとするならば、そんなMRJは飛ばなくともよい。スクラップにするか、実験機として使いまわすくらいでちょうどいいだろう。